紳士協定のDo Not Trackが微妙、法規制やADブロックという選択肢も(2013年2月)
現状では無意味なDo Not Track
Do Not Trackは主要ブラウザが実装を完了したものの、掲載メディアやソリューション側の対応がバラバラなので、設定をONにしてもほぼ効果が無い状態です。例えばGoogle ChromeでDo Not TrackをONにすると「効果は保証できませんよ」というようなアラートが表示され、「詳しく見る」をクリックすると「現時点で Google を含むほとんどのウェブ サービスはトラッキング拒否リクエストを受信しても代替動作に切り替えたりサービスを変更したりしません」()と表示されます。 Google ヘルプより引用
業界の自主規制が頓挫
オバマ政権の決定を受け、業界の関係者が集まって2012年中に詳細仕様を決めるべく議論を続けてきましたが、プライバシー保護派と広告推進派の間の溝が埋まらず、こう着状態になりました。
CNN Moneyの記事 "Do Not Track is Dying" (11/30) を要約すると:
- 毎週電話会議を実施し、6回は顔を合わせて議論を重ねたが、トラッキングの定義と規制対象について合意できなかった。
- プライバシー保護派は、広告業界が同じ問題を何度も蒸し返すことで引き延ばしと妨害をしていると批判し、広告業界は、行き過ぎた規制がデジタル広告と広告主に重大なダメージを与えると擁護。
- 中小のアドバタイザーは、GoogleやAOL、Yahoo!などが自社ネットワーク内でユーザー行動データを引き続きトラッキングできるのは不公平だと批判
大きな転換期となったのは、マイクロソフトによるIE10でのDo Not Trackのデフォルト有効化。デフォルト設定はユーザーによる明示的な意思表示ではないため、その設定を尊重するのは受け入れがたい、と広告推進派は強く反発。折衷案に向けて歩み寄りを続けてきた雰囲気が一転、溝が広がり続け、何を議論しても反対意見が噴出するようになった、と。
以上が2012年11月30日時点の情報。
自主規制のコンセンサスが得られなかった場合
仕様が確定したとしてもDo Not Trackは紳士協定なので、ベンダーやメディア側がその設定を無視することもできます。そのため、プライバシー保護派は、より強固な仕組みとしてブラウザ側でトラッキングをブロッキングする方式にシフトしつつあります。
また、この状況を見かねて、米消費者保護団体のConsumer Watchdogsは2013年1月30日にFTCへ書簡を送付。自主規制はもう無理なので法規制を進めるべき、と主張しました。
テコ入れで再始動したW3C
一方、モデレーター役のW3Cはテコ入れのため、2012年11月27日に新たな専門家を新担当として投入。このPeter Swire氏は2月11日になって進捗を発表 しました。
W3Cのブログ記事"Full Stream on Do Not Track" (2/12) を要約すると:
- 2月の会合で進捗があった
- ロードマップとスケジュールを更新:7月に最終草案、10月に勧告候補、2014年1月に勧告案、4月にW3C勧告(参照:Tracking Protection Working Group Charter)
- メンバーが分担して仕様書を執筆する段階になった
新スケジュールによると、W3C勧告が発行されるまで1年以上あります。発行されても、次にソリューションやメディア側の対応が必要になります。すべて完了してDo Not Trackが実質的に有効な状態になるまでFTCが待てるのか、待てずにEUのような法規制による強制力の発動へと進むのか、それともより強力な防衛手段であるブロッキングの仕組みが草の根的に普及するのか、まだまだ微妙な状況が続きそうです。