EU最前線から「企業向けCMSの選び方」
J.Boyeカンファレンスレポート第二段は「CMS選定の進め方、落とし穴とベストプラクティス」という3時間のチュートリアル(講師はCMS WatchのアナリストJarrod Gingras氏とJ.BoyeのPeter Sejersen氏)についてです。
まずは前提から。
- 完璧なコンテンツ管理システムは存在しない
- 要件が特殊すぎると、マッチするCMSを選ぶのは不可能に近い
#でも、企業の中にいると何が普通で何が特殊な要件なのかが分らないんですよね。
CMS選定ですべきこと、してはいけないこと
CMSソフトウェアベンダー(製品)とシステムインテグレーター(実装する会社)の両方を選ぶ必要がある。この両者にとって魅力的で、かつ提案しやすいプロジェクトにするといい。
- 詳細な点数付けをしない
- 要件の詳細リストを作らない
- 導入前に小さな練習プロジェクトを実施する
- ベンダーとの対話をうまくコントロールする
- 3年以上先は考えない
#実装ベンダーについては意識から漏れがちですね。販売ベンダーは実装してくれないのです。
CMS選定にあたり考慮すべきポイント
- プロジェクト期間
- ステークホルダー(関係者)
- 予算
- ビジネスケース(想定シナリオ)
- 目的
- 要件
- 市場
- 選定プロセス
- 意志決定
#プロジェクト規模が大きいとベンダーは本気で提案してくれますが、規模が小さい場合は、提案の敷居を下げる、勝てる確率を高く見せる、将来のライセンス追加を予告する、提案前の対話からヒントを引き出してRFPを具体化する、などの工夫が必要になります。
誰を巻き込むべきか
マーケティング、開発者、プロジェクトマネージャ、システム運用者、Web運用マネージャなど(組織による)。チャンピオン(伝道者)とPMは必須、とGingras氏。関係者が多くなると政治的になってくるので、進め方は慎重に。それぞれの立場で意見を述べる、という役割を明確にする必要がある。最終決定を委ねるわけではない。
要件定義(ビジネスケース作成)の前にCMS製品を選ばないこと。よくあるビジネスケースとしては:
- 自動化によって効率を改善し、コストと不満を削減する
- リスク回避(システム化は保険にはなるが、新たなリスクも生み出すので注意)
- 価値を高める(コンテンツの有効活用や、標準化による品質の向上)
#日本でもこの順番ですね。3点目の前向きなコンテンツ活用促進についてはあまり語られることがないですが、元IAの清水としては強調しておきたいところです。デフレの今、中身のコンテンツこそが企業の差別化につながり業績をも左右する。現場はコストや運用管理のことばかり考えてしまいがちです。
RFPに盛り込むべき項目は?
何を達成したいのかを理解すること。端的で効果的なRFPは10ページ以内で十分。
- ビジネス要件
- 技術的な要件(アーキテクチャ・標準)
- ベンダーの役割(何をどこまで提案するのか)
- 選定スケジュールと評価基準
#10ページ以内は理想的ですね。長いと細かくなるだけで、ポイントがブレていても力作RFPに見えてしまい、社内でウケます。
チェックリスト式はNG。受け取ったベンダーは若手に過去の提案のコピペをさせるだけで、よい提案を受けられなくなる。5~7本程度の具体的なシナリオを書くのがおすすめ。CMS選定は結婚と同じ。相手を好きになること。
#良好な関係を築き、良い提案を引き出したいところですね。選定・発注担当がコンテンツ管理に詳しくなっておくという手もありますが、技術オタクは提案側にとって厄介な存在になるだけなので、自社のコンテンツ管理プロセスや現場の事情、具体的なあるべき姿のイメージ、について詳しくなっておくと、ベンダーからの信頼を得られます。
ベンダー数は5~7社程度が理想的
社外で情報収集を。ただし、万人にとってベストなCMSは存在しないので、あくまで参考程度に。
#エンドユーザー同士の交流の場は少ないですね。導入企業の立場での私の執筆や講演がお役に立つと良いのですが。
提案の評価方法
コピペ(他の案件からの使い回し)を見分けること。ベンダーはあなたのシナリオを理解したのか?類似案件の実績紹介も重要。
#CMS導入プロジェクトは難しいので、実績は多いほど良いです。提案のプレゼンでは「失敗から何を学んだか」について質問すると、どれ位ノウハウが貯まっているかが分かります。
製品デモ
関係者を漏れなく集めること。ただし、多すぎてもいけない。
また、よく仕込まれた美しいデモには要注意。あなたの要件を満たすとは限らない。何をデモしてほしいかは予め伝えておく。また、どこまでが標準ライセンスに含まれるのかを理解しておくこと。
#何事も値段次第、高いものが良いのは当たり前ですよね。同じ機能でも10万円と1000万円では、評価がまるで異なります。
SIに実装を依頼する場合は、このデモの段階から巻き込むこと。実装のコストの方がライセンス費よりも高くつくことが多い。
評価は製品とベンダーの二つの軸で。オープンソースCMSの場合はコミュニティのノリも理解すること。そして、デモの後は忘れないうちに意見を集め、記録をしておく。デモのビデオ撮影をしておき、後で見比べるという方法もある。
絞り込みとPOC(実証プロジェクト)
2社程度に絞り込んだ後は、リアルなシナリオとリアルなコンテンツを使ってCMS製品を使ってみたり、製品や実装ベンダーのリアルな人と仕事してみるという方法もある。お金はかかるが、実装で失敗するよりもよっぽど安くつく。プロジェクト本格始動の前に、Proof of concept(実証プロジェクト)を実施してみよう。
#POCは私も2年前に実施したことがあります。ライセンス購入の前に600万円かけて、デモ環境構築、技術的ハードルの検証、新旧の管理プロセスのモデリングと作業ステップの比較(映画のシナリオ風にbefore、afterを対比)を行いました。その後の要件定義にも活かせるので、無駄にはなりません。
最終選定
評価の観点としては
- 実行力と安定性
- サポートとコミュニティ
- サービスと販売パートナー網
- 戦略と将来性
ユーザーカンファレンスに参加するのも良い。事例や本音について知るには最高の機会といえる。CMS選定は単なるソフトウェア購入ではないため、一緒に仕事をすることになる人たちを理解しよう。
#私もEMC Documentumのカンファレンスに3年連続で参加しました。USのユーザー会では驚くほど濃い事例が共有されるので、非常に参考になるだけでなく、活用レベルが桁違いにスゴイので非常に刺激を受けました。
コストについては単純比較は難しい。CPUやユーザー数、サーバー数やドメイン数などの単位が異なったりするので、しっかり理解すること。また、ライセンス費の2~4倍程度の実装・コンサルティング費用を確保しておくのをオススメする。オープンソースであっても実装のコストはかかる。
最後に、交渉してから契約すること。
#私の場合も実装は確かに3~4倍かかりました。さらに、コンテンツの整理と構造化に10倍くらいの費用をかけました。CMSはハコでしかなく、その中に入れるコンテンツにこそ価値がある。だから、ファイルサーバーや個人のマイドキュメント、InDesignネイティブファイルなどから製品関連のコンテンツをかき集め、確認・修正・フォーマット変換・メタデータ付与を行い、全製品のコンテンツを一定の品質を保った状態にするまでに2年近くかけたのです。コンテンツの再利用を促進するのは、お店のオープンと同じです。新鮮で質の高い商品を揃えてからオープンしないと、クリエイターや編集者は戻ってきてくれません。
関連リンク:
- Selecting a CMS - Pitfalls and Best Practices (元ネタ:CMSWireによるレポート)
- J.Boye Conferenceとは
- パネルレポート「CMS業界は建て直しが必要?」