CMS業界は建て直しが必要?

2009年11月09日 00:00

CMS関連の恒例イベント「J.Boye Conference: Aarhus 2009」が11/3~5にデンマークで開催されました。主催のJanus Boye氏はEUを代表するCMS業界のキーパーソンで、6トラック同時進行で2日間という充実したイベントだったようです。日本と世界のCMS事情はどう違うのでしょうか?

CMSのここが変、業界の課題とは

初日の午前中は「CMSのここが変、業界の課題とは?」(Inconvenient truths and unsolved WCM industry challenges)というパネルが盛り上がったようです。参加者のレポートやTwitterから内容を再構築してみました:

まずはCMS WatchのJarrod Gingras氏。

CMS業界は順調で、壊れてはいない。

  • 競争は健全、顧客には多くの選択肢がある

  • 不満はあるが、エンドユーザーとのズレが問題

続けて、2010年のCMS業界がどうなるかを予測。

  • 吸収・合併はまだ続くが、大きな流れは変わらないだろう。

  • 小規模ベンダーの革新とユーザビリティに大手も負けずに対抗していくだろう。

  • (カスタマイズ前提の)プラットフォーム的なCMSとCMS製品は引き続き混在・共存するだろう。

  • SharePoint 2010は良くなったとはいえ、契約を勝ち取るためにまだ奮闘する。

  • SaaS型のCMS:話題性は減っていき、吸収がありそうだ。

清水コメント:このあたりは同意ですね。M&AされるようなグローバルCMSベンダーは、日本ではAutonomy Interwoven、Oracle(元Stellent)、SDL Tridion、EMC Documentum(この4社は既に買収済み)、独立系で残っている商用CMSベンダーはFatWire、Asburu(日本での製品名はHeartCore)位ですが、グローバルなCMSはもっと数多く存在します。SharePointは日本ではあまり話題になっていない点に関しては「SharePointはCMSなのか?」の記事で取り上げました。SaaS型のCMSは、日本ではドイツのJimdoが日本語版サービスを提供していますね。SaaS型のCMSを16種類レビューした記事が11/16にWeb担当者Forumで公開されました。

一方、主催者Janus Boye氏とLBiのJon Marks氏は、CMS業界には課題があるとし、

どうすればCMS業界を立て直せるのか?

という問題を提起。

Gingras氏は、ユーザーエクスペリエンスをもっと重視することや、実装にエンドユーザーをもっと巻き込むことが重要、と回答。

Jon Marks氏はここで、CMS業界の抱える問題点を次のように整理(プレゼン資料はこちら)。

CMS導入プロジェクトが失敗するのは誰のせいか?

顧客・ベンダー・実装者がお互いを責め合うことが多い。CMS製品はパーフェクトではなく、顧客はヘマをすることもあるが、対処できるべき。

「WCM」という用語は適切か?

WCMという用語は広すぎてあいまい。もっと細分化し、ポータルやSoCo(ソーシャルコラボレーション)との違いを明確にする必要がある。

RFPはなぜ不適切なのか?

いまだにチェックリストや比較表ベースのRFPが多い

業界標準

まだプロプライエタリな独自技術が多く、標準への準拠が不十分。CMISに期待。

コンテンツ移行

適切なツールとプロセスを使えば管理できる。実際のところ、移行というよりは再編集になる。ベンダーの「楽に移行可能」という宣伝を信じてはいけない。

清水コメント:事情は日本でも同じですね。なお、本記事では便宜上「CMS」と記述していますが、プレゼンやブログ記事では「WCM」(ウェブコンテンツ管理)という略称が使われています。CMS(コンテンツ管理システム)では広すぎるので、欧米ではより細分化して「WCM」や「Web CMS」という名称が使われるようになってきました。それでも「広すぎる」というわけです。XMLやDITA、CMIS、JSRなどの標準への準拠に関しては、日本ではまだ注目度が低いですが、実は重要です。

では、どうすべきか?

Marks氏の提案は

  • CMS導入プロジェクトの開始時にゴールを明確にする

  • 失敗に備えたプランを

  • 壁を作らず共有しよう

ここでBoye氏が発言。

  • CMSベンダーがこれらを解決してくれると期待するのは非現実的

  • 顧客が要求しないとCMSベンダーは変わらない

  • もっと顧客同士で対話すべき

顧客は、次の方法で変化を起こしつつある。

  • 教訓や事例を共有し始めた

  • ベンダーへ実装にもっと関与するよう要求し始めた

  • 業界標準を採用し始めた

清水コメント:肝心の解決策の部分が少し薄いような...。まだまだこれから、ということでしょうか。下記のその他の発言も参考になります。

その他の発言

  • Q:間違った製品選定をしてしまい、2年間を無駄にした。RFPや説明会よりも良い方法は?(会場から)
    A:数社にお金を払って何かを作ってもらうとよい(Marks氏)
  • 成功するプロジェクトはPOC(Proof-of-Concept=実証プロジェクト)にお金を払う。失敗の代償よりよっぽど安い(Gingras氏)
  • 知識を共有しても損にはならない。既に良い本や教育プログラムが存在する(Boye氏)
  • (リポジトリ間の相互通信が可能な)CMISはまだドキュメント管理がターゲットだ。1.0以降ではWCM向けに拡張されることを望みたい。
  • 顧客はどのツールを使うかではなく、何を目指すのかを考えるべき(Boye氏)

清水コメント:先月のCMSセミナーでお話した内容とだいぶカブっていますが、私の方が先だったのでパクリではありません(笑)。日本よりは少し進んでいるものの、CMSの選定や導入にあたって同じ課題を抱えていて、まだまだ試行錯誤中なのは同じですね。引き続き研究と実践、啓蒙活動を続けていきたいと思います。

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